戯曲『ちゃんと死ぬ』

ご無沙汰です。

昔書いた戯曲を掘り起こしたので是非読んでください。2000字以内の超短編です。

ちゃんと死ぬ

古川雄大

 

登場人物

  女子生徒

  女性教師

校長 校長

 

舞台

学校のピロティ。

 

 

 死んでほしい。

 え?

 死んでほしいです。

 ……いやいやいや。

 ……。

 本気?

 ……。

 私、死のうと思えば全然死ねる女だから。その点バカにしないでほしい。

 嘘くさい。

 嘘じゃねえってばほら。死にまーす。

 

  2、自分の頭を銃で撃ち抜く。

  倒れる。目を見開いたままの2の死体。

  やがて生きている2がどこからともなく現れる。

 

 ね? 死んだでしょ?

 「ね? 死んだでしょ?」??

 死んだでしょーが。何、文句ある。

 「ね? 死んだでしょ?」?? はあ??

 なんだよーてめえよー。

 本気で死ぬんだったら死んだあとにそんな間抜けなセリフ吐きませんから。

 誰が間抜けだって? あん?

 あーうるさいうるさいうるさい

 あのさぁ、人一人死んでんだけど。

 てめーで勝手に死んだんじゃないですか。

 先生をてめー呼ばわりすんじゃねえよ!

 いやそっちもさっき私のことてめー呼ばわりしたじゃないですか。教師が生徒をてめー呼ばわりしてる方がよっぽどですからね!

 やんのかゴラ。

 ほらほらほら教師の態度とちゃうでしょ。

 バカにすんじゃねえぞ大人をよー。

 いやもう少しわきまえろって。

 

  二人、もみ合いになる。

  誤って発砲。2が倒れる。

 

 あらやだ。

 

  並ぶ2の死体。

  どこからともなく2が現れる。

 

 殺すな殺すな。焦る焦る。

 いや、別にいいじゃないですか。

 別にいいって、あんたねー、自分で頭撃って死ぬのと他人にブチ殺されるのじゃあこっちの覚悟が違うんだよ?

 はいはい。

 はいはいて。もー。……何ぃ?

 (涙ぐむ)

 ちょっとちょっと。今度はどうしたの。

 先生私の話全然聞いてくれない……。

 え! いや聞くってば! 聞くよ! 先生あんたの味方なんだから。こっち来なさい。

 

  手を広げる。1、2にしがみつく。2はそれを抱きしめる。

 

 はーいはい。お利口さんね。ゆっくりでいいからね。さあほら、涙がもーう、ぐずぐず! せっかくのかわいいお顔が……あーあーあーあー。ハンカチ出すから。袖で拭いたら汚れます! あーあーもーう。さぁさぁほらほら、言ってごらん? 先生あなたの頼みならなーんでも、聞いてあげますから。

 死んでほしい。

 なぁに?

 死んでほしいです先生。

 死にます死にます。

 先生死んでもすぐ出てくるじゃないですか。

 そりゃ、まあ、そういう仕組みだものねぇ。

 嫌です私。先生にはちゃんと死んでほしいんです。

 

  校長が現れる。

 

校長 おやおや、ここにおられましたか。

 あら校長先生。

校長 どうされたんですか?

 いーえー、全然大したことじゃありませんが、この子私に死んでほしいんですって。

校長 あーなるほどねー。だからここに先生の死体が。

 死ね。いいから早く死ね。

 はいはいお利口さん。

校長 困りましたねー。先生も死んであげたんですか?

 はい、もう見ての通りで。

校長 ちゃんと片付けてくださいね、これ高木先生なんかが見たら大騒ぎですよ。

 あ、そうかも。それは大変ね。

 

  新しい2がやってくる。古い方の2がまだいることに気づいて焦りだす新2。

  旧2も新2に気づきあたふたする。

 

 え、まだ?

 まだまだまだ。

 やっば。

 え、一旦?

 一旦一旦。

 え、じゃあ、はい。

 

  旧2、自分の頭を撃ち抜く。

  抱き着いていたので一緒になって倒れる。

  新2、1に近づく。

 

 どうだった?

 もう! せっかく当たりだったのに。

 人のこと当たりはずれで呼ばない。

 死ね! 死・ん・で! 死ね! 死んだあと死ね! ずっと死ね! ちゃんと死ね! おい! 死ねってばほら!

 えー……どうしましょう校長先生。

校長 困りましたねー。

 親御さんに連絡……。

 

  2を銃で撃ち抜く。

  2が現れる。

 

 します?

校長 連絡した方がよさそうですね。

 そうですよね。今仕事中かな……。

校長 あ、じゃあ先生はその子の相手してあげてください。頃合い見て私が電話を……。

 ありがとうございます……ほんと……すみません色々お騒がせして。

 いいよもう先生。校長先生が死んだら許してあげる。

 本当に?

 本当。

 (校長に)どうします?

校長 んー何が?

 場合によってはね。別に、私が死んでもかまわないんですけど、ま、こうなっちゃう訳ですし。場合によっては、ねぇ。

校長 場合によっては?

 ぜひね、校長先生。ぜひねぇ。はい。私もその方が気が楽ですし。

校長 気が楽。

 はい。

校長 ちょっと考えさせてください。

 

  校長、ちゃんと考える。

 

 ねえねえ。

 ん?

 校長は死んだらどうなるんですか?

 見る?

 見ます。

 見よっか。

 

  校長を撃つ。校長倒れる。

  誰も現れない。

 

 うん。校長はちゃんと死ぬ。

 

終わり